生活環境影響調査

生活環境影響調査とは、廃棄物処理施設を設置した場合に周辺の生活環境にどのような影響を及ぼすかという点について、周辺地域の生活環境の現況を把握し、施設の設置による影響を予測し、その結果を分析することにより、その周辺地域の生活環境に応じた適正な保全対策を確認することが可能となり、施設の設置計画を作成するために必要かつ重要な調査になります。

生活環境影響調査は、許可を要するすべての廃棄物処理施設について実施が義務付けられており、生活環境影響調査の結果により、施設の設置に関する計画、維持管理に関する計画を検討・作成し、産業廃棄物処理施設設置許可申請書に記載するとともに、生活環境影響調査書についても申請書に添付し、許可権者に提出します。

生活環境影響調査の手順

  • 調査事項の整理
  • 調査対象地域の設定
  • 周辺地域の生活環境の現況把握
  • 施設設置による影響の予測
  • 予測結果の分析

 

1.調査事項

調査事項は、廃棄物処理施設(焼却施設、破砕施設等)を実際に稼働させた場合と、処理する産業廃棄物の搬出入及び保管に伴って生じる生活環境への影響に関するもので、以下の内容となります。

調査事項

  • 大気環境(大気質、騒音、振動及び悪臭)
  • 水環境(水質及び地下水)

各調査事項の具体的な項目(例えば大気質の場合、二酸化硫黄(SOx)、二酸化窒素(NOx)などの項目であり、以下「生活環境影響調査項目」と言います)については、廃棄物処理施設の種類及び規模並びに処理対象となる廃棄物の種類及び性状並びに地域特性を考慮して、必要な生活環境影響調査項目を申請者が選定します。

対象施設の構造上の特性や地域特性から見て、影響が発生することが想定されない調査事項(例えば、排ガスが生じない施設の場合の大気汚染、排水が生じない施設の場合の水質汚濁など)については、具体的な調査を実施する必要はありませんので、その場合、必要がないと判断した理由を記載します。

 

2.調査対象地域の設定

調査対象地域は、施設の種類及び規模、立地場所の気象及び水象等の自然的条件並びに人家の状況などの社会的条件を踏まえて、調査事項が生活環境に影響を及ぼすおそれがある地域として申請者が設定します。

調査事項ごとの調査対象地域は、調査実施時点で一般的に用いられている影響予測手法によって試算するか、環境省が作成した「生活環境影響調査指針」の中で示している例示を参考に、次の考え方に沿って設定します。

調査事項 考え方
大気質 煙突から排出される排ガスによる影響については、寄与濃度が相当程度大きくなる地域とします。
廃棄物運搬車両の走行によって排出される自動車排気ガスによる影響については、廃棄物運搬車両により交通量が相当程度変化する主要搬入道路沿道の周辺の人家等が存在する地域とします。
騒 音 対象施設から発生する騒音による影響については、騒音の大きさが相当程度変化する地域であって、人家等が存在する地域とします。
振 動 振動は、騒音と同様の考え方で設定します。
悪 臭 煙突から排出される悪臭による影響については、大気汚染における煙突から排出される排ガスによる影響と同様の考え方で設定します。
対象施設から漏洩する悪臭による影響については、対象施設周辺の人家等が存在する地域とします。
水 質 対象施設から公共用水域に排出される排水による影響については、対象施設の排水口からの排水が十分に希釈される地点までの水域とします。
地下水 最終処分場の存在によって地下水の水位、流動状況に影響を及ぼす範囲とします。

 

3.現況把握

現況把握は、周辺地域における生活環境影響調査項目の現況、及び予測に必要な自然的、社会的条件の現況を把握することを目的として、既存の文献、資料、または現地調査により行います。

既存の文献、資料が十分か否かの判断は、設定した調査対象地域内において信頼性のある情報が得られるか、または地域外であっても、立地場所周辺の環境の状況を代表し得ると判断される情報が得られるか否かによって行います。

施設規模が大きい場合や、民家等が密集した地域に設置する場合には、綿密な現況把握が求められることから、既存文献、資料と現地調査とを組合わせて現況把握を行う場合が多いです。逆に、施設規模が小さく、周辺に民家等が存在しない事業で、簡略的な予測手法を採用する場合などには、現況把握のための定量的データが得られなくても予測及び考察に支障がないことも考えられます。現況把握は、影響の予測を行う上で必要な程度行うものであり、施設が及ぼす生活環境への影響の大きさ、周辺地域の状況によってその内容は異なるものとなります。

なお、周辺地域の自然的条件および社会的条件の把握も予測を行う上で必要な限度で行えばよく、不要な項目まで網羅的に把握する必要はありません。生活環境に及ぼす影響の程度を予測するために必要と考えられる自然的条件及び社会的条件は、次に示す項目の中から必要な項目を把握します。

現況把握項目 自然的条件及び社会的条件
大気質 気象(風向、風速、大気安定度)、土地利用、人家等、交通量及び主要な発生源
騒 音 土地利用、人家等、交通量及び主要な発生源
振 動 土地利用、地盤性状、人家等、交通量及び主要な発生源
悪 臭 気象、土地利用、人家等及び主要な発生源
水 質 水象(河川の流量、流況等)、水利用及び主要な発生源
地下水 地形・地質状況、地下水の状況(帯水層の分布、地下水位及び流動状況等)及び地下水利用状況

 

現況把握を行う調査地点は、調査対象地域内において、地域を代表する地点影響が大きくなると想定される地点人家等影響を受けるおそれのある地点等の中から適切に設定します。

なお、調査対象地域外の情報であっても、調査対象地域内の現況を把握するうえで支障がない場合は、その情報を利用することができます。

現況把握の時期及び期間は、生活環境影響調査項目の特性に応じて、把握すべき情報の内容、地域特性等を考慮して適切かつ効果的な時期及び期間を設定するが、気象・水象については、年間を通じた変化をおおむね把握できる程度の調査で差し支えありません。

 

4.予 測

生活環境影響の予測は、生活環境影響調査項目の変化の程度及びその範囲を把握するため、計画されている対象施設の構造及び維持管理を前提として、調査実施時点で一般的に用いられている予測手法により行い、定量的な予測が可能な項目については計算により、それが困難な項目については同種の既存事例からの類推等により行います。

予測地点は、事業特性および地域特性を勘案し、保全すべき対象、地域を代表する地点等への影響を的確に把握できる地点を設定します。

予測の対象となる時期は、施設の稼働が定常的な状態となる時期を設定します。

なお、定常的な状態に至るまでに長期間を要する場合は、必要に応じて中間的な時期での予測を行います。

 

5.影響の分析

生活環境影響の分析は、処理施設の設置による影響の程度について、生活環境影響調査項目の現況、予測される変化の程度及び環境基準等の目標を考慮しながら行います。具体的には、環境基準等の目標と予測値を対比してその整合性を検討すること生活環境の影響が実行可能な範囲内で回避され、又は低減されているものであるか否かについて事業者の見解を明らかにすることが必要となります。

調査項目ごとの視点は以下のとおりです。

大気質

煙突から排出される排ガスについては、二酸化硫黄、二酸化窒素、浮遊粒子状物質、塩化水素、ダイオキシン類、その他処理される廃棄物の種類及び性状により排出が予想される項目を、最終処分場については粉じんを、また、廃棄物運搬車両の走行によって排出される自動車排気ガスについては、二酸化窒素及び浮遊粒子状物質を対象として、プルーム式、パフ式等の大気拡散式に基づき寄与濃度が最大となると予測される地点(同等の寄与濃度が複数地点において生じる場合は、それらのすべての地点)、及びその周辺の人家等を含む地域における影響を分析します。

プルーム式、パフ式とは

プルーム式とは、煙の拡散を定量的に予測しようとする時に使われる予測計算式(シュミレーションモデル)のひとつで、有風の気象条件の計算式として利用されます。
風下に連続して流されていく煙の典型的な形の1つを英語の「plume」(羽飾り)に見立てて名付けられました。平たん地で風下に向かって連続して拡散される定常状態の汚染物質濃度の予測値を求めるのに適しております。

パフ式とは、煙の拡散を定量的に予測しようとする時に使われる予測計算式(シュミレーションモデル)のひとつで、無風又は微風の気象条件の計算式として利用されます。
瞬間的に排出された煙の形を英語の「puff」(丸く、ふわっとしたもの)に見立てて名付けられました。非定常状態や無風、微風時の汚染物質の濃度の空間分布を求めるのに適しております。

(出典:一般財団法人環境イノベーション情報機構「環境用語集」より)

 

騒音

対象施設及び廃棄物運搬車両から発生する騒音については、騒音の大きさを対象として、騒音の距離減衰式により騒音の大きさの寄与が最大となると予測される周辺の人家等の地点(同等の大きさの寄与が複数地点において生じる場合は、それらのすべての地点)における影響を分析します。

振動

振動は、騒音と同様の考え方で分析します。

悪臭

煙突から排出される悪臭については、特定悪臭物質のうち廃棄物の種類及び性状により排出が予想される物質の濃度又は臭気指数を対象として、プルーム式、パフ式等の大気拡散式に基づき寄与濃度が最大となると予測される地点(同等の寄与濃度が複数地点において生じる場合は、それらのすべての地点)、及びその周辺の人家等を含む地域における影響を分析します。
対象施設から漏洩する悪臭による影響については、対象施設周辺の人家等が存在する地域における影響を分析します。

水質

対象施設から排出される排水については、BOD(海域・湖沼についてはCOD)、SS、その他処理される廃棄物の種類及び性状により排出が予想される項目を対象として、公共用水域、水道の取水地点における利水上の支障などの影響を分析します。

BOD、COD、SSとは

BODとは「生物化学的酸素要求量」のことで、「Biochemical Oxygen Demand」の頭文字を取ったものです。
水中の有機物が微生物の働きによって分解されるときに消費される酸素の量のことを指します。主に河川の有機汚濁を測る代表的な指標として利用されます。

CODとは「化学的酸素要求量」のことで、「Chemical Oxygen Demand」の頭文字を取ったものです。
水中の有機物を酸化剤で分解する際に消費される酸化剤の量を酸素量に換算したもので、海水や湖沼水質の有機物による汚濁状況を測る代表的な指標として利用されます。

SSとは「浮遊物質」のことで、「Suspended Solids」の頭文字を取ったものです。
水中に浮遊または懸濁(けんだく)している直径2mm以下の粒子状物質のことで、沈降性の少ない粘土鉱物による微粒子、動植物プランクトンやその死骸・分解物・付着する微生物、下水、工場排水などに由来する有機物や金属の沈殿物が含まれます。SS、懸濁物質と呼ばれることもあります。

(出典:一般財団法人環境イノベーション情報機構「環境用語集」より)

 

地下水

最終処分場周辺の地下水については、その水位、流動状況を対象として、井戸水の取水地点における利水上の支障などの影響を分析します。

 

6.生活環境影響調査書の作成

生活環境影響調査の結果については、次の内容を記載した生活環境影響調査書としてとりまとめます。

  1. 設置しようとする廃棄物処理施設の種類及び規模並びに処理する廃棄物の種類を勘案し、当該廃棄物処理施設を設置することに伴い生ずる大気質、騒音、振動、悪臭、水質、または地下水に係る事項のうち、周辺地域の生活環境に影響を及ぼすおそれがあるものとして調査を行ったもの(生活環境影響調査項目)
  2. 生活環境影響調査項目の現況及びその把握の方法
  3. 当該廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響の程度を予測するために把握した水象、気象その他自然的条件及び人口、土地利用その他社会的条件の現況並びにその把握の方法
  4. 当該廃棄物処理施設を設置することにより予測される生活環境影響調査項目に係る変化の程度及び当該変化の及ぶ範囲並びにその予測の方法
  5. 当該廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響の程度を分析した結果
  6. 大気質、騒音、振動、悪臭、水質、または地下水のうち、これらに係る事項を生活環境影響調査項目に含めなかったもの及びその理由
  7. その他当該廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査に関して参考となる事項