目次
有害使用済機器
1.有害使用済機器とは
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」)における有害使用済機器とは、①使用を終了し、②収集された機器(廃棄物を除く)のうち、その一部が原材料として相当程度の価値を有し、かつ、適正でない保管又は処分が行われた場合に人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがあるものを、有害使用済機器と定義されております。
ここでポイントとなるのは、有害使用済機器が廃棄物に該当しないということです。
有害使用済機器が廃棄物に該当しないのに、廃棄物処理法で保管方法や処分方法が規制されるのはなぜなのか、規制の背景を含めて詳しく見ていきます。
2.制度化された背景
近年、金属スクラップ等の保管場における火災のニュースを見かけることが多いと思いますが、火災の原因で最も多いのが、リチウムイオン電池等のバッテリーの短絡(ショート)によるものです。
これは、使用を終了した家電製品等に内蔵されているバッテリーに、外部からの大きな衝撃を受けることにより生じる、バッテリー内部での短絡や、バッテリーの電極が水に濡れたりすることによる外部短絡により発熱・発火し、付近の可燃物に着火し火災に至るというものです。
つまり、発火の原因となる使用済み家電製品等の不適正な保管により、火災を含めた生活環境への支障が生じるおそれがあるとして、平成29年6月に法制化され、有害使用済機器の保管又は処分を業として行う事業者に、都道府県知事・政令市長等への届出、保管・処分基準の遵守等を義務付けました。
3.規制の対象となる有害使用済機器とは
廃掃法では、保管又は処分の規制対象となる有害使用済機器は、一般消費者が通常の生活の過程で使用する機器、および同様の構造を有するもので、全部で32種類定められており、具体的には以下の機器となります
有害使用済機器一覧
- ユニット形エアコン(ウィンド形エアコン又は室内ユニットが壁掛け形若しくは床置き形であるセパレート形エアコンに限る。)
- 電気冷蔵庫及び電気冷凍庫
- 電気洗濯機及び衣類乾燥機
- テレビのうち、次に掲げるもの
イ プラズマ式のもの及び液晶式のもの(電源として一次電池又は蓄電池を使用しないものに限り、建築物に組み込むことができるように設計したものを除く。)
ロ ブラウン管式のもの - 電動ミシン
- 電気グラインダー、電気ドリルその他の電動工具
- 電子式卓上計算機その他の事務用電気機械器具
- ヘルスメーターその他の計量用又は測定用の電気機械器具
- 電動式吸入器その他の医療用電気機械器具
- フィルムカメラ
- 磁気ディスク装置、光ディスク装置その他の記憶用電気機械器具
- ジャー炊飯器、電子レンジその他の台所用電気機械器具(第二号に掲げるものを除く。)
- 扇風機、電気除湿機その他の空調用電気機械器具(第一号に掲げるものを除く。)
- 電気アイロン、電気掃除機その他の衣料用又は衛生用の電気機械器具(第三号に掲げるものを除く。)
- 電気こたつ、電気ストーブその他の保温用電気機械器具
- ヘアドライヤー、電気かみそりその他の理容用電気機械器具
- 電気マッサージ器
- ランニングマシンその他の運動用電気機械器具
- 電気芝刈機その他の園芸用電気機械器具
- 蛍光灯器具その他の電気照明器具
- 電話機、ファクシミリ装置その他の有線通信機械器具
- 携帯電話端末、PHS端末その他の無線通信機械器具
- ラジオ受信機及びテレビ受信機(第四号に掲げるものを除く。)
- デジタルカメラ、ビデオカメラ、DVDレコーダーその他の映像用電気機械器具
- デジタルオーディオプレーヤー、ステレオセットその他の電気音響機械器具
- パーソナルコンピューター
- プリンターその他の印刷用電気機械器具
- ディスプレイその他の表示用電気機械器具
- 電子書籍端末
- 電子時計及び電気時計
- 電子楽器及び電気楽器
- ゲーム機その他の電子玩具及び電動式玩具
4.有害使用済機器と廃棄物との境界とは?
廃掃法における有害使用済機器には、「廃棄物を除く」と定義されているため、まず有害使用済機器が廃棄物なのかどうかを判断する必要があります。そのうえで、本来の用途としての使用が終了した有害使用済機器であるかどうかを判断します。
有害使用済機器が廃棄物に当たるかどうかを判断する手順としては、以下のフローで判断します。
有害使用済機器が廃棄物に該当するか否かは、いわゆる「廃棄物該当性の総合判断説」によって判断され、廃棄物と判断した場合は、廃掃法、家電リサイクル法、小型家電リサイクル法などの規定に基づき、適正・適法に処理する必要があります。
一方、廃棄物ではないと判断できた場合は、その物が本来の用途での使用が終了しているかどうか判断します。まだ使用が可能である場合は、再使用を目的としたリユース品に該当します。
廃棄物にもリユース品にも該当しない場合、本来の用途での使用が終了した有害使用済機器と判断されます。
5.有害使用済機器保管等届出が必要のないケース(届出除外対象者)
有害使用済機器の保管又は処分を業として行う場合であっても、以下に該当する場合は届出の義務はありません。
届出除外対象者
- 法令に基づき、環境保全上の措置が講じられ、環境汚染のおそれがないと考えられる者
例:廃棄物処理業者や家電リサイクル法や小型家電リサイクル法の認定業者等のうち、一部の事業者 - 行政機関
- 有害使用済機器の保管量が少ないこと等により、人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれが少ないと考えられる者(保管場所の敷地面積100㎡未満)
- 本業に付随して有害使用済機器の保管のみを一時的に行う場合
雑品スクラップ業者以外の例外
雑品スクラップ業者以外の者が、業の目的以外で有害使用済機器の保管を一時的に行う場合は、届出除外対象者となります。
例えば、機器の修理時に交換後の故障品を回収し、有価取引等で他者へ引き渡すまでの間一時保管する修理業者、又は、機器の販売を本来の業務とし、販売業務に付随して使用済みの機器を回収し、有価取引等で他者へ引き渡すまでの間、一時保管する小売店等が対象となります。
6.有害使用済機器の保管、処分等の基準
有害使用済機器は、モーターやバッテリーが使用されているものが多く、不適正な保管や処理を行うことにより、モーターから漏れた油の流出による周辺土壌や河川の汚染、あるいはリチウムイオン電池からの発火による火災、有害物質の飛散・流出など、人や生活環境への支障が生じる恐れがあることから、有害使用済機器の保管・処分を行う場合は、以下の基準を満たす必要があります。
有害使用済機器の保管・処分等の基準 | |
囲いの設置 | 飛散・流出防止、人の立入防止 |
掲示板の設置 | 有害使用済機器の保管場所である旨の表示 |
保管高さ | 保管状況に応じて定められた有害使用済機器の保管高さ |
土壌・地下水汚染防止 | 床面をコンクリートで覆う、排水溝・油水分離槽の設置 |
飛散・流出に関する必要な措置 | 屋外で容器を用いずに保管する場合、飛散・流出防止用のフェンス設置等 |
生活環境の保全 | 搬出入車両、荷下ろし・積込みに使用する重機の騒音・振動防止対策等 |
火災・延焼防止 | 消火器等の消火設備の設置、蛍光灯・電池などの有害物質の除去、保管高さの遵守等 |
公衆衛生の保全等 | 蚊、ハエ、ネズミ等の衛生害虫・害獣の発生防止措置および対処 |
特定家庭用機器に該当する 品目の処分 |
鉄、非鉄金属の回収、フロン類の飛散防止のための適正な回収 |
禁止行為 | 焼却、熱分解、埋立処分及び海洋投入処分の禁止 |
7.帳簿の備え付け
有害使用済機器の保管又は処分を行う事業者は、適正な保管又は処分を意識していただくため、受入先、受入量、搬出先、搬出量等を帳簿として記載することが義務付けられております。帳簿は手書きのものからエクセル等で作成したデータでも差し支えありません。
また、帳簿は1年ごとに閉鎖し、5年間保管する必要があります。
以下は、有害使用済機器の保管を行う事業者向けに作成した、現場担当者記入用の帳簿です。
8.立入検査
有害使用済機器の保管又は処分が適切に行われているかを確認するため、定期的に都道府県等の行政機関による立入検査が実施されます。
立入検査においては、有害使用済機器の保管又は処分等の基準が、法令及び事業者の届出どおりに適正に行われているかどうか、帳簿は漏れなく必要な項目等が記載されているかどうかについて、現地確認が行われます。
また、立入検査に伴い、有害使用済機器の疑いのある物の保管や、有害使用済機器の不適正な保管又は処分・維持管理が行われている場合などは、必要な報告徴収、改善命令、措置命令等が行われますので、法令の基準に従い、適正・適法な施設運営が求められます。
9.罰則
立入検査を意図的に拒否・妨害した場合や、報告徴収、措置命令、改善命令に従わなかった場合には、以下の罰則規定が適用される場合があります。
罰 則
- 措置命令違反:5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又はこれを併科
- 改善命令違反:3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又はこれを併科
- 届出義務違反:30万円以下の罰金
- 報告徴収に関する不報告等:30万円以下の罰金
- 立入検査の許否等:30万円以下の罰金
10.まとめ
有害使用済機器の保管又は処分については、平成29年6月に廃掃法の改正に伴って制度化されました。それに伴い、有害使用済機器の保管及び処分等の基準が定められ、届出が義務化されましたが、金属スクラップ等の、いわゆる再生資源物の屋外保管については、これまで法令等による規制がありませんでした。
近年、金属スクラップ等の再生資源物を屋外で保管する事業場が増加し、再生資源物の屋外保管場の周辺における騒音・振動や、不適切な保管による火災の発生など、生活環境への支障が顕在化したため、千葉市では全国に先駆けて「千葉市再生資源物の屋外保管に関する条例」を制定し、令和3年11月から施行されました。
これにより千葉市内において金属スクラップ等の再生資源物を屋外で保管する場合は、再生資源物の保管基準に従い保管を行うとともに、一定の場合を除き、設置する屋外保管場ごとの許可制としました。
また、他の市町村、都道府県においても、千葉市に続き、金属スクラップ等の屋外保管に対する同様の制度化の動きが見られます。
金属スクラップ等の再生資源物を屋外で保管する事業者においては、千葉市の保管基準等を参考に、今のうちから制度化を見据えた施設整備を行うことが望ましいと考えます。