目次
解体工事等における残置物について
1.残置物とは
残置物とは、文字通り「残されて置かれている物」のことであり、一般的には住居等の賃貸物件を退去する際に、前の居住者が残していった物であったり、あるいは家屋等の解体工事を行う際に、居住者が処分せずに家屋に残された家財道具などのことを指します。
当事務所においては、解体工事業者より残置物の処分方法についての問い合わせや、残置物を自社で処理するために一般廃棄物収集運搬業の許可取得方法についての問い合わせが多く寄せられております。
ここでは、残置物の処理方法や一般廃棄物収集運搬業の許可について触れていきます。
2.なぜ残置物が発生するのか?
解体工事業者は、解体着工日までに建物の中には何もない状態にしておくように居住者等にお伝えしますが、不要となった家財道具等を居住者自身で処分するには、誰でも億劫になりがちです。
どうせ建物を解体するのであれば、解体した際に発生するゴミと一緒に処分してもらおうという発想からか、解体工事における建物内の残置物が多く見受けられます。
3.残置物は産業廃棄物か一般廃棄物か?
残置物が産業廃棄物なのか一般廃棄物なのかは、残置物が置かれていた建物をどのような人が使用していたかによって大別されます。
○建物の使用者が事業者だった場合
建物の使用者が、法人や個人事業等の事業活動を行っていた場合は、産業廃棄物と一般廃棄物の両方に該当します。
例えば、スチール製の机やイスは産業廃棄物の「金属くず」、樹脂製のケースやトレー、小物入れ等は産業廃棄物の「廃プラスチック類」に該当し、木製の書棚やテーブルは一般廃棄物(事業系一般廃棄物)に該当します。
○建物の使用者が一般個人の場合
一方、建物の使用者が個人や一般家庭の場合は、全て一般廃棄物となります。
4.残置物の処分方法
残置物の処分方法には、大きく分けて2通りあります。
①居住者等が自ら処理する
管轄する自治体にもよりますが、一般廃棄物であれば、当該市町村のクリーンセンター等に自分で持ち込むという方法と、産業廃棄物であれば、自分で持ち込みが可能な最寄りの産業廃棄物処分場を探し、あらかじめ処理委託契約を締結して持ち込む方法等があります。
ただ、トラック等をレンタカーで手配し、自分で荷物を運び出し、クリーンセンター等まで持っていけるという、手間を嫌がらない人や時間的余裕がある人は、そんなに多くはないと思われます。
②許可業者に処理を委託する
残置物が産業廃棄物に該当し、産業廃棄物として処理を委託する場合は、産業廃棄物処理業の許可業者に委託する必要があります。この場合、あらかじめ処理業者と処理委託契約を締結し、マニフェスト伝票の交付と同時に残置物を引き渡します。
残置物が一般廃棄物に該当する場合は、一般廃棄物処理業の許可業者に委託する必要があります。管轄の市町村役場では、引っ越しゴミや大量の家庭ゴミの処理を引き受けてくれる、一般廃棄物処理業者を案内しているところもあります。
なお、残置物を廃棄物と決めつけて所有者に無断で処分することは、「不法行為」(民法第709条)に該当し、残置物の所有者から損害賠償責任を追及される可能性がありますので、どう考えてもゴミだろうと思っても、必ず所有者に確認する必要がありますので、ご注意ください。
解体工事の実情
解体工事業者にしてみれば、限られた工期の中で工事を終わらせる必要があるため、いつ終わるかわからない残置物の処分を、いつまでも居住者等に任せている訳にもいきません。
かといって、解体工事業者が残置物の処理を委託する一般廃棄物処理業者を手配しても、解体当日に来てくれるとも限りません。
解体工事業者が、一般廃棄物収集運搬業の許可を取得したいという相談が多数寄せられる背景には、こうした理由が絡んでいるのです。
5.残置物を産廃の許可のみで運搬するのは違法?
前述したとおり、残置物はその大半が一般廃棄物である場合が多く、残念ながら産廃の許可のみで運搬することは違法となるケースがほとんどです。
6.一般廃棄物収集運搬業許可について
一般廃棄物収集運搬業の許可権者は市町村長であり、一般的に市町村の一般廃棄物処理計画に基づき、必要な事業者の数や規模が決められるため、新規での許可取得は極めて困難です。ただし市町村によっては、事業系一般廃棄物に限定した新規の許可を認めているところもあります。
一般廃棄物収集運搬業の許可は、荷積み地である市町村長の許可と、荷下ろし地である市町村長の許可が必要となります。
市町村内で発生したゴミを、同じ市町村内にある一般廃棄物処理施設に搬入する場合は、1つの市町村長の許可があれば足りますが、解体工事業者のように、1つの市町村のエリア内だけの解体工事を請負う事業者は皆無であり、市町村や都道府県を超えて広域的に解体工事を行う事業者にとっては、一般廃棄物収集運搬業の許可取得は、たとえ許可取得が可能であったとしても現実的ではありません。
7.まとめ
解体工事における残置物は、当然あるものと認識し、解体工事のスケジュールの中に残置物の処理工程をあらかじめ設けておき、事前に一般廃棄物収集運搬業者の手配を行うなどの段取りが必要かと思われます。
ただ、解体工事業者にとっては、限られた工期の中で工事を完了させなければならない状況の中で、残置物の処理に要する時間を割くことは、非常に困難なことだとは思います。
施主や元請事業者に現状をご理解いただき、適法に処理を行っていただけたらと思います。